WOOD先生の歴史授業

「起立」

「礼」

「着席」

今からwood先生の、おもしろい歴史の授業をはじめます。

wood先生:歴史にも人気ってのがある。戦国時代や源平の合戦、幕末なんかがそうであり、そこに出てくる登場人物が大河ドラマの主人公になんかなりやすい。

生徒A:そういえば、大河ドラマってそうなってるね。ただ、その中でも視聴率がとれるのと、そうでないのがあるよね。

wood先生:よく気付いたね。それを演じる役者さんなんかの予算は決まってるから、何を演じるかで視聴率が変わるよね。とくに最近では『平清盛』の低視聴率が話題になったんだ。平清盛源頼朝と比較されたんならいいけど、ヒーローの源義経と比較されると悪いイメージになってしまう。

生徒B:平清盛って、どんな悪いことをしたの。

wood先生:歴史の登場人物なんて、みんな悪いことをしてきた人ばかりだよ。ただ、そこに世論に嫌われやすい悪みたいなものがあるんだ。例えば、女性や子供まで殺しちゃう人とか、浮気者とかお金に汚い人とか、贅沢ばかりの人ってのは世論の印象が悪いんだ。

生徒C:先生が使った「世論」っていう言葉って、政治でよく聞く言葉だよね。

wood先生:いいところに気付いたね。たかが世論、されど世論であり、歴史なんて世論と権力者が作ってきた物語みたいなもので、あんまり全てが事実だとは考えない方がいいんだ。

生徒D:えっ、歴史って事実じゃないの。

wood先生:全部とは言わないけど事実じゃないね。しかも、その大半が事実じゃないと言っても過言ではないね。だって、隣の中国では20年くらい前に『天安門事件』って大きな事件があったけど、現在の共産党政権が変わらない限り、絶対に教科書に載ることはない。それは、中国の最大権力が集中する共産党ってところにとって都合が悪いからね。つまり、歴史に事実を書いちゃうと、共産党の印象が良くなくなるからさ。世論からの印象が。

生徒D:なるほど…。じゃあ、日本史とか世界史とかの授業って意味ないじゃん。

wood先生:そうだね。昔あった事実が、何年に誰が起こした戦いでとか覚えるだけならね。

生徒D:そうじゃないの?

wood先生:捉え方は、人それぞれでいいんだと思う。年号や人物名を暗記しておけば、テストの点は良くなるし、受験にも役立つから。でも、それだけに歴史を学ぶのなら、ちょっともったいないかな。

生徒A:先生は歴史って何だと思ってるの?

wood先生:先生は歴史を「人間がいかに愚かであるか」を認識させてくれるもんだと思ってる。もっと砕いて言うと「人間は、みんなバカ」ってこと。

生徒B:先生もバカなの?

wood先生:もちろん。

生徒C:バカって、どういうこと

wood先生:変えられないってことかな。よく「歴史は繰り返す」って言われるけど、先生は「人間は繰り返す」だと思ってる。ここでいう「繰り返す」ってのは良くも悪くも両方を指すんだけど、歴史では悪い方の繰り返しが時代を動かしてきたんだ。人は一回目なら注意をされて、二回目なら叱られたり、罰をくらわされたりで、三回目にはバカとなる。どんな歴史上の偉大な人物もみんな繰り返しの歴史なんだ。

生徒B:ん〜バカなのは俺だけだと思ってた。

wood先生:みんなバカだよ。だから冗談じゃなく断言できることがあるんだ。歴史のテスト勉強や宿題なんてやらなくていいから、今から言うことだけは、これからの人生で頭の片隅においといてほしい。

(先生も生徒も少し真顔になって、少しの間ができる)

wood先生:日本は必ず、もう一度戦争をする。

生徒全員:えっ。

wood先生:残念ながら…それが歴史を学ぶ意味なんだ。

生徒D:俺は違うと思います。何で先生は断言するのですか。

wood先生:わかった。ただし、D君の答えには一言で答えることができない。そこで、私の江戸時代中期のの授業を聴いてくれないだろうか。

生徒全員:はい。(みんな、うなずく。)

 

wood先生:よし。さっき「繰り返す」という言葉が出てきたが、現在の日本の状況と酷似している時代が江戸時代にあったんだ。江戸時代は大きく3つの改革と2つの文化で分類して考えると理解がしやすいんだ。まず、3つの改革についてわかる子はいるかな。

生徒E:はい。享保の改革寛政の改革天保の改革です。

wood先生:その通り。ただ残念ながら3つとも改革という名がついているが「改革」ではないんだ。これは先生個人の考えや持論ではない。この「改革」と呼ばれるものとともに幕府の借金は膨らみ、この改革に合わせて大飢饉も発生している。その他にも様々なデータを見てくれれば一目瞭然だし、これが「改革」で成功であったなら、江戸幕府は潰れることはなかったのだ。

生徒C:じゃあ、なんで改革?

wood先生:その前に悪い流れがあったり、悪い奴が悪政を働いたからなんだ。ただし、ここでも注意が必要なんだ。歴史上、良い意味で使われる「改革」が改革じゃないんだから、悪政も、そのまま悪政だと簡単に捉えてしまうといけないんだ。

生徒B:田沼意次のこと?

wood先生:そういうこと。子供向けの『日本の歴史』なんか見ても田沼意次の顔は見るからに腹黒で意地悪そうな顔をしている。一方の三大改革を行った徳川吉宗松平定信水野忠邦は善良なイメージでハンサムに描かれている。たぶん、歴史の教科書にも田沼意次が行った施作よりも、賄賂などでお金儲けしたことや、その金で息子の身分まで買収しようとしたことが強く書かれているんだが、実際は違うところが多いんだ。田沼が金持ちになったのは賄賂など汚いお金ではない。今でいう政治献金や株主配当金であり、きちっとしたルールに則ったお金が自分に流れ込んでいただけなのだ。ただ、それまでの米経済から貨幣経済の変換期であり、新しいことに移行するときには、それだけルールにも抜け穴が多く、それを逆手にとった贈収賄事件が多発したことは事実だけどね。

生徒B:だったら、何で後世まで評判が悪く、失脚させらちゃったの。

wood先生:嫉妬だよ。

生徒B:えっ 嫉妬?

wood先生:嫉妬なんて江戸時代特有のもんじゃないよね。今でもそうだよ。最近の総理大臣で本当の一般市民からなった人なんていないよね。ほとんどの人が父親も総理大臣とか大臣経験者なんだ。日本人に限った話じゃないけど、多くの人間は血筋みたいなものを尊重する傾向にある。アイデアを出したり実行する人くらいならいいけど、権力者になる人は、それなりの血筋でないとなれないのは、今も昔も変わっていないことなんだ。大企業だって、社長は幕府の将軍のように、血筋だけで選んではいないように見えるけど、必ず筆頭株主に名を連ねていたり、取締役に創業家一族の誰かが名前を入れているよ。その企業が世襲制だと世論に思われると困るから赤ら様なことはしていないけど、血筋を尊重する風習は必ず残っているんだ。

生徒B:じゃあ、いい血筋じゃない人は嫉妬されるの。

wood先生:いい血筋じゃない人が、そのまま一般市民なら嫉妬されはしないけど、そういう人が一段上のステージで活躍したらね。血筋がない人が一段上のステージで活躍するってことは、それなりの実力と実績があるからなんだけど、小さなミスが命取りになることが多いんだ。化けの皮がはがれたかのように、そういう人がまた一番上のステージから転落するのを見るのは、世論が大好きなんだ。現在のワイドショーなんて、そういった世論の心で成り立っている。

生徒D:田沼も嫉妬で失脚?

wood先生:早い話がね。田沼を全面信頼してた将軍家治が重い病気になったところで、周りの連中がタッグになって田沼落としをはじめたんだ。そこで、新しい老中に任命されたのが8代将軍吉宗の孫にあたる松平定信って人なんだ。吉宗の血を引いてるし、農民のことも真面目に考えてくれる人だったので、その期待感から、けっこう厳しい倹約令をいくつか発布したけど、1年くらいはその期待から経済も衰退せずに進んでいったのだ。

生徒C:わかった。定信が今の安部総理に似てるって言いたいんでしょう。じいちゃんも岸とかいう総理大臣じゃなかったっけ。

wood先生:その通り。ただ、先生が伝えたいのは、そこじゃない。これから政界に進出したい人なら松平定信から安政の大獄井伊直弼までの老中の移り変わりについて勉強すべきなんだけど、我々は一般市民だからね。そこで、そういった時代の一般市民がどういった生活をしていたかに注目してみよう。

生徒A:一般市民って農民?

wood先生:いい質問だね。江戸時代は士農工商という身分制度があり、今のように職業選択の自由はなかったよね。ただ、みんなのお父さんのほとんどが会社勤めか、自営業でお金を稼いでいるように、ここでいう一般市民は商人が似ていると思うんだ。人口の割合でいえば農民が圧倒的に多かったんだけど、江戸や大坂という町は商人が多く、江戸時代の中期には米経済から貨幣経済に大きく移行していた時代でもあったんだ。

生徒C:米経済?貨幣経済

wood先生:明治維新っていうけど、江戸時代と明治時代の最大の違いは、最大の価値基準が「米」から「お金」に変わったことでもあるんだ。そういった意味で明治時代からは、間違いなく「お金」を中心とした貨幣経済なのだが、江戸時代は完全な米経済かと言われると疑問符がつくんだ。

江戸時代が米経済であったのは、「加賀百万石」などと米の石高が国の大きさを表す指標になっていたし、今でいう税金は「お金」ではなく年貢の「米」だったのは間違いない。ただし、播州赤穂藩などは、その石高が5万石しかないけど、塩の名産地であり「米」ではなく「お金」がたくさんあって、道は舗装され、下水道も整備され、小さな藩とは思えないような城下町を作っていたそうだ。

江戸時代前期には、この石高で、ものごとが決まったり、大名同士の結婚などにも左右され一つのステイタスでもあったけど、享保の改革以降は、そんな石高のステイタスよりも、実質的な「お金」の価値の方があったみたいなんだ。

さっき出てきた田沼意次って人は、この流れに気付いており、幕府としてお米をたくさん持ってたり、お米の流れを牛耳っていることよりも、お金を貯え、お金の流れを牛耳ったほうがいいと考えた人なんだ。つまり米経済から貨幣経済にシフトチェンジしようとしたんだけど、昔ながらの保守派に潰されたんだ。だから、江戸の三大改革とは、この米経済から貨幣経済に移るのを避けようとした政策でもあるんだ。それで根本思想は倹約であり、お金での贅沢を戒め、真面目に農業に勤しめというのがあったんだ。

江戸時代の中期以降は、実質的に米経済から貨幣経済に移っていたんだけど、それを幕府重鎮が嫌ったんだ。しかし、多くの市民が米よりもお金に価値があることくらい気付いていて、どんなに厳しい倹約令が出ようとも、お金の価値がどんどんと上がっていったんだ。幕府の重鎮としては田沼意次だけが、市民感覚を知っていたんだけど、それ以外の老中はみな「裸の王様」だったんだ。

だから、市民はみな倹約令が出るたびに「アホなお上」だと心の中でバカにしていたんだ。

生徒A:それは、よくわかる。俺も「アホな校長」って思ってるし(笑)

wood先生:それは先生も同じとは言えないな(笑)

じゃあ、学校の授業が全部聴いても意味なかったり、アホな先生が意味ないことばっかり教えたらどうなると思う。

生徒D:自分たちで勉強するんじゃない。

wood先生:同感!

先生もそう思う。テレビやニュースで、これからの教育について、偉い人たちが真面目に考えているけど、それって意味ないんだよね。別にそんな偉い人に考えてもらわなくたって、自分たちで考えるんだよ。

江戸時代も同じだったんだ。

それまで、ある程度の身分の高い人間だけが受けることができ、幕府の要人になることだけが目的の朱子学を中心とした授業から、商人なら商人の学校といったように「私塾」といわれる独立した学校が増え始めたんだ。有名な吉田松陰が作った松下村塾もその一つなんだ。

 

生徒E:俺、吉田松陰が好きなんだ。

wood先生:そうだよな。そこから出てきた長州藩士や坂本龍馬みたいな人が大好きな人が多いのはわかるんだが、みんな坂本龍馬みたいにアクティブに動けるか?久坂玄瑞みたいなリーダーシップがあるか?西郷隆盛みたいに人から信頼されてるか?

幕末から明治維新にかけて活躍した歴史上の人物ってのは、かっこいいけど、みんなすごい人すぎてあまり参考にならないんだ。能力や実力だけでなく運みたいなものもあったしね。それに数年後に明治維新のような変わり目が来るわけでもないしね。

生徒E:確かにね…。

wood先生:そこで、テストにも受験にも絶対に出ないけど、おもしろい人がいるから紹介したいんだ。

生徒C:誰?

wood先生:小右衛門

生徒C:小右衛門?誰それ?

wood先生:ある大阪の米問屋の番頭さんなんだけど、その小右衛門が仕事しながら学んだことをまとめた一冊の書物があるんだ。その本を書いたペンネームが「子蘭」っていうんだ。

生徒B:子蘭… それ 知らん(笑)

wood先生:いやいや、本当にそう意味もあるんだ。なぜなら、その本には真実が書かれているからね。真実が書いてあるということは、お上に批判的なことが書かれていることになる。すると、自分の子孫に迷惑がかかっては困るので、お上に「誰が書いた」と聞かれても誰が書いたかわからないようにするために、一度は「子蘭」というお上をバカにしたシャレのきいたペンネームで書き残そうとした事実があるんだ。 結局は違うペンネームを使ったんだけど、幕府が借金だらけで、地方では大飢饉に見舞われ、街では厳しい倹約令が敷かれるという中で、小右衛門だけでなく、人々は結構楽しく暮らしていたんだ。そういった時代に育まれた文化を「化政文化」といい、派手で絢爛豪華な「元禄文化」とは違い、一見すると地味だが、庶民的で実は奥が深い文化が発達した時期でもあるんだ。

生徒C:先生が好きな落語とかもでしょ。

wood先生:そうだね。町のあちこちで講釈が催されていたしね。

先生は思うんだ。

今は少子高齢化で経済の成長が望めない。安部さんは第三の矢とか言ってるけど、絶対にありえない。みんな成長戦略なんてありえないことは知ってるんだけど、安部さんみたいな偉い人になると「裸の王様」だから言ってくれる人がいないんでしょう。お金を中心とした経済だけを何とかしようと思っている政治家の皆さんは、どこかの時代の、◯◯の改革とかに似てますよね。実質的に米経済は破綻してたんだけど、それにしがみついた人たちに。

でも、悲観しちゃいけない。

お上はバカでも、文化は育っている。お金にはならないけど、とても面白いことが増えていると思うんだ。そんな時代だからこそ小右衛門という男を知ってほしんだ。

生徒E:小右衛門って誰だよ?

wood先生:山片蟠桃 っていう男さ。

 

つづく